色彩の豊かさと響きの強さ

ベヒシュタインの信じがたいほど美しい音色の秘密は、演奏者それぞれのタッチが最高のレベルで音に置き換えられるという点にある。そのため、響板と支柱の製作にあたっては、各部分相互の全体的なバランスに注意するのと同じくらい気を使っている。というのは、ほとんどすべての部品が楽器の音色、寿命、安定性、タッチに影響するからである。作業の工程がよりきめ細かく、卓越してくるにつれ、ピアニストもより細やかな反応を得られるようになる。

  

響板

響板は木の振動板で、弦振動によって活性化され、響きに大きな影響を及ぼす。 そのためベヒシュタインでは響板の質に特に注意を払っており、一つ一つ、響き方及び振動の長さと保持、性質がテストされる。どのピアノも、後で気候や温度の変化という攻撃に耐え抜くために、特殊な乾燥、中間保管、シーズニングを受ける。何十年も続く安定性はベヒシュタインブランドの特長の一つである。
ベヒシュタインならではの非常に鋭敏で、高緊張下におかれる響板は、響板リムないし支柱、またはリムの周縁部でにかわによって接着され、作られる。技術的に向上した設備を倉庫に設け、モデルごとの緊張度については、きわめて精確なそれぞれの基準値を守っている。例えば支柱はフライス盤で加工するが、百分の一ミリという細かな単位 で共鳴板の湾曲(クラウン)に注意している。響板リムは、上にのっている響板を最も適した緊張度に保つので、振動板の自由な動きを妨げる力が働くことがない。振動板が自由に動くと、エネルギーが失われることなく響きが広がる。
共鳴板の直径は作業の過程でしつこいくらいに確かめられる。これは、音色、音質がモデル及び部位 ごとの直径に影響を受けるためである。同じことは厚さや、響棒の位置にもあてはまる。モデルごとの響板の大きさは、スペースを最大限に利用して定められている。響板は、マイスターによって見きわめられ、大切に引き出される、その楽器の特質を表す部分である。助響板はアップライトピアノの音質とヴォリュームを支えている。

 

 

二つの駒は響板と弦とをつないでいる。駒圧は弦振動の力を響板に伝える媒体となっており、楽器ごとに響板の特殊なたわみと柔軟性がその都度決定される。無垢材から作られる駒は、音を伝えるのに最高の媒体になる。ベヒシュタインの楽器作りでは、どんな細かいものにも注意が払われている。ベヒシュタインという一級品の製作過程には、大きい単位 での作業などあり得ない。

響棒

響棒は、設計の上で響板を支えながら、音のエネルギー拡散を助ける。ベヒシュタインでは、響棒は端のところで正確にほぞ木合わせされるので、響板の緊張が時間の経過とともに低下することがない。響棒のほぞは、響棒の端とその直径に完全に合わせられる。響板と響棒におけるクラウンとテンションは、室内の湿度の変化によって最高のハーモニーを響かせ、結果 、響板は演奏時の最小の振動でもしっかりと反応する。

ピン板

ピン板に最も適した堅い木材、赤ブナは十字に重ねられ、強い抵抗力でチューニングピンを長期間にわたって維持する。ベヒシュタインのアップライトピアノ、グランドピアノは調律の持ちの良さで知られているが、それを証明するように、ベヒシュタインの場合、ホール搬入前にコンサート調律をすることも可能である。

支柱

堅い無垢材でできた骨組みは、響板、フレーム、鍵盤アクションの全重量を支えている。ベヒシュタインのグランドピアノでは、木材を層状に積み重ね、にかわで接着して支柱にする際にモデルごとに考え抜かれた特徴のある並べ方が採用されている。寸法、材料は発音や演奏技術的な鋭敏さに留意して決められている。細部にはそれぞれに役割がある。アップライトの場合は、支柱の無垢材が抜群の調律の持ちを保証する。
どの支柱も0.01ミリまでの誤差で精確に内リムに埋め込まれ、木製ダボで固定されている。誰にも越えることのできない安定性と、世代を越える寿命の長さは、あらかじめプログラムされているのである。ベヒシュタインのマツ材からなる支柱の安定性は、優れた設計からだけでなく、材料と作業によってだけでもなく、特別 な管理方法と意識的な環境への順化によって得られるのだ。

 

 

外リム

特殊な方法を用いてにかわで接着した層から作られ、特別に加工されたはたがね(クランプ)を使って人力で押しつけられ、曲げられる。緊張した状態で寝かされ、後に響板と支柱をしっかりと包み込むことになる。

大蓋

艶やかな外装の下には非常に高い品質が隠されている。無垢材の板は互いににかわで接着され特殊な方法で化粧板が張られる。これが、ねじれに耐える大蓋設計のポイントである。表層部の高級木材の下には、さらににかわづけされた木の層があり、決まった繊維の方向に沿って幾重にも化粧板が張られて、落ち着く。このように非常な手間をかけて作られた大蓋は、音の放射を助け、それでいて持ち上げたときに重さを感じないようになっている。

しっかりとしたペダルと脚

ベヒシュタインでは、最新型の締め金で脚をとめ、このような重い楽器を動かす際の安全性に特に気を配っている。また、舞台上で非常にデリケートなポイントとなるペダルについても、スムーズで踏みやすいよう、微妙なところまで同様に気を配っている。

鋳鉄フレーム

ベヒシュタインのフレームは高級なネズミ鋳鉄からなり、基本の周波数特性に有利とされている砂型から作られるが、これは笛のような雑音を防ぎもする。音響に関していえば、液状の鉄の材料を湿った砂型に流し込む伝統的なわざの方が、真空法よりも圧倒的に優れている。フレームの寸法と力の分配は、共鳴体との関係上、アップライトピアノ、グランドピアノにおけるエネルギーの循環にとって重要である。というのは、つねに18から20トンにもなる張力を、フレームと支柱とで支えなくてはならないからである。このフレームは、完全な耐久性と安定性への、きわめて高い要求のために案出された。その質量 や圧縮力を決める際にもやはり音響学的要素が大切にされている。

 

 

手作業の技術



ベヒシュタインでは、作業者の負担を軽減できる生産設備を調えるために、つねに投資を行っている。コンピュータ制御の道具や機械を使ったインテリジェントな施策としては、例えば、精密さが求められる金属作業で人の負担を減らすこと、研究部門で新しいプロジェクトを迅速に置き換えることなどがあり、実に有効である。ベヒシュタインは未来を見据えており、古いやり方にこだわって停滞したり、行き詰まったりすることを避けている。品質や精密さが技術によって支えられる部分では、一台一台のピアノに細やかな作業を加えるため、価値ある時間がきちんと確保されている。鍵盤アクションや音作りのような、その道のスペシャリストによってのみなされるべき作業は、完全に手作業で行われている。ベヒシュタインが贈るこの贅沢。違いは、聴けば明らかである。

マイスターたちの細やかな共同作業

ベヒシュタインではさまざまな資格をもつ専門家だけで仕事をしているだけではなく、品質の追求は仕入先を選択するときからすでに始まっている。音色に影響を及ぼす鋳鉄フレームのための鋳造専門職人、ミュージックワイヤーや銅線の専門業者、精密なチューニングピンとセンターピンのためのメーカー。いずれも完全に基準に合った、設計・耐久テスト済みの部品を用いている。ベヒシュタインの基準はきわめて高い。 選び抜かれた鍵盤とアクションの製造者、フェルト製作者、ハンマーヘッド製作者、こうした全ての人々が、設計コンセプトからエクセレントなピアノを生産するために重要なはたらきをしている。

 

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